FMSに関連して数多くの研究が出ていますが、今回は高齢者とFMSに関連して、2つの面白い研究を紹介したいと思います。

 

by 上松大輔

 一つめは、Mitchell UHらの高齢者のBMI、身体活動量とのFMSスコアの関係をみたものと、もう一つは、高齢者のフィットネス・体力パフォーマンスとFMSの関係に着目したものです。

 

Mitchell UHらの2016年の"高齢の活動的成人におけるFMSの成績"(Performance on the Functional Movement Screen in older active adults)と題した論文では、主にFMSと高齢者の年齢、BMI、性差、身体活動との関係を見ています(Mitchell, Johnson et al. 2015)。

 

年齢とFMSスコア

 計97名(65.7 ± 7.1歳、BMI 25.8 ± 4.2)(男性53名、67.1 ± 7.2歳、女性44名、64.1 ± 6.7歳)を対象にした研究で、以下のような結果であり、全体では、12.2 ± 2.7となっています。

年代別には以下の通り。

50–54 15.8 ± 4.2

55–59 13.6 ± 1.5

60–64  13.4 ± 2.3

65–69 11.4 ± 2.4

70–74  11.1 ± 2.6

75+  10.4 ± 2.5

 

n数が十分でないこともあり、統計解析や特別な言及はありませんが、55歳を分岐として、一つの目安となる14点を下回っている点は、Perryらの研究の結果50–54歳 14.03±2.29と55–59歳 13.64±2.68と同等のもので、特筆に値するものに思えます。

 

 この研究の被験者の平均FMSトータルスコア12.2 ± 2.7は、Perryらが行った研究における50歳以上の被験者357名の平均スコア(13.39)よりも低くなっていますが、Mitchell UHらは、この不一致を説明する1つの理由として、FMSの採点方法が考えられ、本研究では、すべてのテスト項目をビデオに録画し、訓練された2人の調査者が後で評価するように対し、PerryらのFMSの採点者に関する経験が記載のない生理学者を用いていることとしているとしています。FMSの測定は簡単に見えますが、やはり一定のトレーニングが必要であると思えます。

 

左右差

 97名のうち、55名(57%) が、FMSの左右の評価のある5つのテストのうち少なくとも1つ に非対称性を有し、SM(28名)、ILL(17名)、RS(16名)となり、女性よりも男性に多い。

 

BMIの影響

 子供や成人を対象とした他の先行研究同様に、BMIとFMSスコアの間に負の相関(r = -0.270)があり、標準体重グループと過体重グループの成績は同程度としている一方、肥満(BMI > 30)の被験者は有意に低いスコアを示しています。

標準体重(BMI= 18.5–24.9)(n = 48) 12.6 ± 2.8

過体重(BMI= 25–29.9)(n = 38) 12.5 ± 2.3 

肥満 (BMI > 30) (n = 11) 10.5 ± 2.4

 

 この結果は、BMI<30の高齢者がBMI≧ 30の被験者に比べ、FMSのトータルスコアで2ポイント近く高いことを報告したPerryらの知見と一致しています。BMIが高いことがFMSの結果に悪影響を及ぼすということは過剰な脂肪がモビリティ、スタビリティ、バランスに影響を及ぼす可能性があるという点に加えて、運動不足と関連することが多い高いBMIには、プロプリオセプション、神経筋制御、バランス、スタビリティの維持や発達に役立つ運動が相対的に不足している可能性があるため、FMSのスコアが悪くなる可能性が考えられるとしています。

これらのBMIとの関係は、子供を対象とした場合にも同様の傾向が報告されています。

 

男女差

FMS™の総スコアには男女間で有意差はないが、若年層と同様に、モビリティテストで女性の方が高得点となり、スタビリティ(TSPU)では男性の方が高いスコアを示した。

トータルスコアとしての差はないものの、それぞれのテストの結果は異なるという面白い結果が出ています。やはりトータルスコアは全体像を提供してくれますが、トータルスコアだけでの議論は不十分であり、それぞれのテストのスコアへと目を向けることが重要ということになります。

 

身体活動との関係

この研究では、身体活動量とFMSスコアの関係を調べたが、その結果はわずかであり、当初、身体活動とFMSのトータルスコアとの間に有意な正の相関があるように見えたものの(r = 0.284、p < 0.01)、年齢、BMI、性、身体活動を合わせて重回帰分析を行なうと、年齢とBMIをコントロールした後では、身体活動量はFMSスコアの有意な予測因子ではなく、年齢とBMIのみが有意な予測因子であったとしています。このことは、身体活動レベルだけを見るとFMSと関係があるように見えるが、この研究の被験者である活動的な高齢者の集団では、年齢とBMIによってよりよく説明される可能性があることを示唆している。

 

まとめ

年齢とBMIはFMSスコアと有意に関連し、FMSスコア全体の分散の約37%を占めていた一方で、性別と身体活動量は、FMSスコアと の関連はなかった。

加えて、運動不足と関連する高いBMI値は、 固有需要感覚、神経筋コントロール、バラン ス、安定性の維持・発達に役立つ運動が相対的に不足するため、間接的にFMSの成績が悪くなる可能性がある、としている。

 

 

Dietze-Hermosaらによる2019年の、高齢者の体力: 修正Functional Movement Screen™との関係はあるか?(Physical fitness in older adults: Is there a relationship with the modified Functional Movement Screen?)とした研究では、健康な高齢者108名(男性48名、女性60名)で、55歳以上、中等度から強度の運動プログラムへの参加を妨げる医学的疾患がなく、医師からプログラムへの参加を許可されたものを対象とした研究において、以下の項目を測定したものがあります(Dietze-Hermosa, Montalvo et al. 2021)。

 

この研修では、握力、バックレッグストレングスダイナモメーター(BLS、背筋力計)、8フィートアップ&ゴー、垂直跳び、座位メディシンボールスロー、チェアスタンドテスト、30秒アームカールテスト、6分間歩行テストと、修正FMSを測定し、フィットネス・体力テストと修正FMSスコアとの関連を調べています。

 

注)

チェアスタンドテスト:下肢筋力テスト

30秒アームカールテスト:上肢筋力テスト

6分間歩行テスト:心臓循環器系へのテスト

Time Up-and-Go(TUG)テスト:高齢者の歩行や生活動作における転倒リスクを判定し、動的バランスや歩行、敏捷性などを総合的に評価するテスト

 

結果は、108名の高齢者において、DSとすべての体力測定値との間に有意な相関がみられ、さらに、参加者すべてが、ショルダーのクリアリングと足関節のクリアリングテストの両方にパスしています。

 

DS

DSは、すべてのフィットネス指標と有意な相関がある。

得点が高いほど、握力、バックレッグストレングスダイナモメーター(BLS、背筋力計)、8フィートアップ&ゴー、垂直跳び、メディシンボールスロー、チェアスタンドテスト、30秒アームカールテスト、6分間歩行テストなど、すべてのフィットネススコアが高いとしています。

DSのスコアが高いほど、より優れたフィットネス・パフォーマンスにつながる

 

下肢MCS

LB-MCSの合格は、バックレッグストレングスダイナモメーター、8フィート立ち上がりテスト、6分間歩行テストと有意な関連がある。

 

年齢

年齢は、アップ&ゴーと中等度、垂直跳びと小程度、座位メディシンボールスローと中程度、6分間歩行テストと中等度の相関関係を有し、修正FMSのSM、 ASLRとも相関関係を有していました。

年齢は、下肢MCSとも小程度の相関関係があり、年齢が高くなるほど下肢MCS不合格の確率が高かった問ています。

 

まとめ

結論として、高齢者の体力向上を望む理学療法士や運動指導者は、特に下肢において改善が必要な部位を特定するためのスクリーニングツールとして、修正FMSを実施することを推奨し、DSのスコアは、一般的に使用されている様々な体力測定と相関していること、さらに下肢MCSにパスした高齢者は、より良い体力スコアを示す傾向があることから、動作パターンと体力との間の正の関係を理解することが有益としています。

 

 

BMI、身体活動とFMSのスコアについては、相関のメカニズムが明確ではなく、そのどうな機序で関係をしめすのか、今後より多くのフォローアップの研究が出てくることで、明らかになってくることが多いのではないかと思います。

また、これまでの研究では、採用されている介入や身体活動については、従来の"筋力トレーニング"や"有酸素運動"が大半となっているため、いわゆる"ムーブメント"に基づく運動・トレーニングが介入に入ってきた時に、どのような効果が出てくるのかという点は非常に関心が集まるところです。

 

また、動作の質・ムーブメントは、これまでの様々な年齢、属性の健康、医療に関する研究におけるリサーチの中で、一つの失われていた貴重なピースとなる可能性が感じられ、まさにFMSが標榜していた、フィットネスと医療に関する議論が整理され、新たな知見が今後作り出されれていくでしょう。

 

 

Schneidersらの2011年の研究については、以前のこの記事で紹介していますが、209名(女性108名、男性101名、年齢21.9±3.7歳、72.8±12.3kg、BMI24.3±3.1)のアクティブな成人を対象とした研究では以下のようなデータが示されています(Schneiders, Davidsson et al. 2011)。

 

性差

トータルスコア:女性のトータルスコアの平均は15.6±2.0(Range 11-20)、男性は15.8±1.8(12-20)であり、統計的に有意ではなかった。

ASLR、TSPU、SM、RSは、女性と男性でスコアに有意な差があった。

 

モビリティ

・ASLRでは、女性の方がスコアが高く、46.3%(50/108人)が3点、43.5%(47/108人)が2点であった。男性の大部分(48.5%、49/101人)はこのテストで「2」を獲得し、40.6%(41/101人)は「1」となった。

・SMでは、女性の方が男性よりもスコアが有意に高いことが示された。男女ともに3点の割合が最も多かったが、男性のスコアはより広範囲に分布していた。

コアスタビリティ

・TSPUは、男性の大多数(76.2%、77/101人)が3点なのに、女性では大多数(58.3%、63/108人)が1となった。

・RSでは、88.0%(184/209人)が2点、11.0%(23/209人)が1点、1.0%(2/209人)が「3」と採点された。RSでも、男性が女性よりも体幹の安定性に優れていることを示している。

 

機能不全

・参加者の31%を占める65人(男性29人、女性36人)のトータルスコアは14以下であった。

 

 

Dietze-Hermosa, M., S. Montalvo, M. P. Gonzalez and S. Dorgo (2021). "Physical fitness in older adults: Is there a relationship with the modified Functional Movement Screen™?" J Bodyw Mov Ther 25: 28-34.

 

Mitchell, U. H., A. W. Johnson and B. Adamson (2015). "Relationship between functional movement screen scores, core strength, posture, and body mass index in school children in Moldova." J Strength Cond Res 29(5): 1172-1179.

 

Schneiders, A. G., A. Davidsson, E. Horman and S. J. Sullivan (2011). "Functional movement screen normative values in a young, active population." Int J Sports Phys Ther 6(2): 75-82.