身体部位の相互依存性 (Regional Interdependence)
上松 大輔
2001年、Gray Cookは部位の相互依存性について、下記のように述べています。
「医療的診断とは無関係な、しかし正常な機能の復元には関係のある制限を明らかにすることで、動作全体に対する観察は、臨床的な焦点を方向転換させ、それを広げるかもしれない」
(“The observation of whole movements may redirect and broaden the clinical focus by revealing limitations unrelated to the medical diagnosis but pertinent to restoration of normal function.”)
また、米国の著名な理学療法士、シャーリー サーマン(Shirley Sahrmann)も同時期に下記のように、動作に対する評価、介入の必要性を示唆しています。
「動作パターンの僅かな変化が特定の筋力低下の原因となることは多くある。この動作パターンの変化と筋力低下の関係は、動作パターンの変化へ対処する治療法を必要とする。つまり、筋力強化を実施するだけでは、機能的動作の中のタイミングや動員方法は改善しないということである。」
“There are numerous ways in which slight subtleties in movement patterns contribute to specific muscle weaknesses. The relationship between altered movement patterns and specific muscle weaknesses requires that remediation addresses the changes to the movement pattern; the performance of strengthening exercises alone will not likely affect the timing and manner of recruitment during functional performance.” (Sahrmann S. 2001)
これらの先駆者の先見の明、直感を裏打ちするように、学術誌Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapyには、「部位の相互依存性:その時が到来した骨格筋検査モデル」(Regional interdependence: a musculoskeletal examination model whose time has come)というコメンタリーが2007年に掲載されています。
その中で、「骨格筋の傷害のマネジメントに対する部位の相互依存性というモデルを応用することを支持する、どのようなエビデンスがあるか?」と問われたRob Wainner(PhD. PT)は、「驚くほどたくさんある」と答えています。
部位の相互依存性のコンセプトを簡略的に説明すると、「身体の一つの部位の健全性・機能性は、他の部位の健全性・機能性に依存する」ということになります。
別の言い方をすれば、ある傷害には、症状を発している”結果”となる部分と、その症状の”原因”となっている部位があるということです。
Joint By Joint Theoryは、この部位の相互依存性というコンセプトに法則性を与えたものと考える事ができます。
つまり、機能障害(Impairments)を対象とした時には、独立した部位の可動域(Motion)や筋力(Strength)を量的に測定し、それらに介入するだけでは不十分であり、症状の原因となった部位の機能不全を見つけ、改善するためにも、動作(Movement)を質的に評価し、介入することが必須であるということです。
20世紀の中頃には既に機能解剖学(Functional anatomy)の重要性に気づき、非外科的な骨格筋系の軟部組織の診断と治療からなる”Orthopaedic Medicine”の父と称される英国人医師James Cyriaxは、下のように述べたとされています。
「整形外科的評価の目的は、患者が気づいていなかった漠然とした症状よりも、患者の訴える疼痛を誘発する動作を見つけることであることを、銘記すべきである。」
と述べたうえで、しかし同時に、
「標準化された手順に従うことによってのみ、医師は見落としがないことを確信でき、そして見落としをしないことによってのみ、真の診断は可能となる。つまり疼痛を誘発する一つの動作によってのみではなく、一貫したパターンを明らかにすることによって、医師は診断に至ることができる。」
と述べています。
“It is well to remember that the object of the physical examination is to find the movement that elicits the pain of which the patient complains, rather than some other nebulous symptom of which he was previously unaware. “Only by sticking to a standard sequence will the physician be sure of leaving nothing out, and only by leaving nothing out are true findings feasible. The physician arrives at a diagnosis not from the evidence furnished by one painful movement, but by careful detection of a consistent pattern.”
ここでは、医師(Physician)という主語が使われていますが、この考え方は、全ての医療従事者、そして運動指導者に当てはまることです。
また、James Cyriaxによる下記の張力と被刺激性に基づく収縮組織の系統的な分類法は有名です。
強く & 疼痛なし (Strong & Painless)
強く & 疼痛あり (Strong & Painful)
弱く & 疼痛あり (Weak & Painful)
弱く & 疼痛なし (Weak & Painless)
シンプルな質的評価は、診断に関する情報を格付け・分類することができ、その後に続く量的評価はその格付け・分類を裏付けし、さらに洗練させることができるということを示しています。
このコンセプトを応用し、FMSが独自に作り出した分類は、機能的(Functional)と機能不全(Dysfunctional)、そして疼痛あり(Painful)と疼痛なし(Painless)という分類に基づき、動作を格付け・分類することにしました。
機能的 & 疼痛なし (Functional & Painless) FN
機能的 & 疼痛あり (Functional & Painful) FP
機能不全 & 疼痛なし (Dysfunctional & Painless) DN
機能不全 & 疼痛あり (Dysfunctional & Painful) DP
SFMAは、部分への介入の地図・ロードマップの役割を果たし、人の動作に関する系統的・システマティックな機能診断(Functional Diagnosis)を可能とし、合理的に機能不全パターンを分解していき、根本原因をモビリティの問題か又はスタビリティ/モーターコントロールの問題のいずれかに診断していくことで、症状の元ではなく症状の原因を究明できる評価システムです。
我々が既存の教育課程の中で教育を受け、既に長けている部位への量的評価・介入を、動作の質的評価・介入へと統合ことを可能とします。
さらに、FMS/SFMAモデルのエントリーポイントとして一緒に機能するFMSと融合することで、疼痛改善後の、FMSをもとにした機能不全のコレティブストラテジーへと連結し、異なる職域のブリッジとなります。