小中学生のFMSスコアに関するレビュー
上松 大輔
標準値を推定するためのメタ分析に含めることが可能であると判断された 19研究を対象としたO’Brienらによる22年のシステマティクレビュー・メタアナリシスの概略をまとめたものです。
今後、論文・研究からの特筆すべき点は個別に紹介していいきたいと思いますが、以下がこのレビューのまとめです。
小学生の標準値
【トータルスコア平均値】
- メタ解析のFMS平均値は、14.06(95%CI 13.48-14.64)となり、カイ二乗検定で有意となり、研究間で異質性があった。
【男女差】
男子:13.91(95% CI 13.30-14.51)
女子:14.56( 95% CI 13.85-15.26)
- 学齢期の子どもや青年の男女のサンプル間で、FMSの平均値の性差は、統計的有意差はなかったものの、効果量が小さくなく、男女差がある(女性の方が、学齢期では機能的動作が優れている)可能性が示唆された。統計的有意差が示されたかった理由は、サンプルの偏りの影響が考えられる。
【学齢期による差】
- 特に注目すべき点として、小中学生を対象としたサンプル間でFMSのばらつきの大きさの差が示され、FMS平均値のばらつきは、小学生と比較して、中学生のサンプルで約5倍も大きかった。
機能的動作の能力(Functional Movement Competency)は、成人にかけて、しばしば加齢と成長(Maturation)に伴って向上するとされていることから、この結果は注目に値する。
小学生における研究は、FMSスコアが年齢とともに上昇するとする先行研究があるが、性差と同様に、思春期の始まりにある中学生の被験者にとって、成熟度が被験者のFMSスコアのばらつきに影響を及ぼしている可能性がある。
【BMIとの関連】
- このシステマティックレビューとメタアナリシスの最後の主要な発見は、BMIとFMS間に、負の、中程度から大きな相関が示された。
先行文献においても、体重は、幼年期および青年期の機能的動作に一貫して影響を与えることが示されている。BMIとFMSスコアの間の有意な相関は、成人においてもエビデンスがあり、高いBMIが生涯にわたって、機能的動作能力を阻害する可能性があることが考えられる。
- 体重過多または肥満の子どもや若者は、主要な関節(膝、股関節、足首)で力を吸収する能力が低下することに加え、姿勢の安定性と制御のレベルが低いことがこれまでに指摘されている。
これらの要素は、機能的動作能力の洗練に不可欠であるため、過体重または肥満を呈している人のFMSスコアが低下へのつながる可能性があると思われる。また、太りすぎや肥満の子どもや若者は、筋骨格系の傷害を負いやすく、身体活動への参加意欲や参加が低下することも先行研究で示唆されている。
FMSの用途、長所が数多くありますが、そのフィロソフィーの一つに、年齢、性別、スポーツ歴、既往歴などに関係なく、同じ評価方法つまり特異性 (Speficity)をあえて持たない方法で、人の動作を見続けることで初めて明らかなことがある、という点があります。
上記のメタアナリシスの結果は、その一旦を表したものといえ、傷害予防プログラムひいては健康・発育発達促進プログラムへ大きな示唆を提供するものと言えます。
Reference
Wesley O'Brien W. et al. The Assessment of Functional Movement in Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med . 2022 Jan;52(1):37-53