FMS開発の経緯:Bridging the gap 

 

 上松 大輔

 

FMS開発の経緯や目的は数多くありますが、その1つを今日は解説します。

 

 メディカルとパフォーマンス・フィットネスのギャップを埋めるため。

(Bridging the gap between performance/fitness and medical community.)

 

 これは90年代のスポーツ現場において、スポーツ・フィットネス参加前に行われる医療的な検査(≒メディカルチェック)(運動禁止となる医療的の既往などへの問診と整形外科的な検査)をした後に、次に行われる測定・計測がパフォーマンステストであった現実に対し、FMSの開発者であるGray Cookらが持っていた違和感、疑問、問題意識の解決策としてFMSは生み出されました。

 

 Grayらは若くして、難治性のケースなどにアドバイスを求められることが多くありましたが、多くのケースで、”機能不全にストレングスを追加する”または”運動制御の問題に対して筋力を解決として提示する”など、医療・フィットネスの基本的な原則に反していることが、多くのケースで問題を複雑化していることを、共通の認識としてもつことの重要性に気づくことになります。つまり、我々、セラピスト、トレーナー、コーチが問題の一部であることに気づく必要があったのです。

 

話は戻りますが、どのようにギャップを埋めるのか?

 

 メディカルとフィトネス/パフォーマンスの2つ専門領域において、それぞれ支配的とも言える機能障害モデル(Impairment Model)と適応モデル(Adaptation model)*のギャップを埋めると言い換えてることができます。具体的には、機能障害モデルと適応モデルの間に運動制御モデル(Motor Control Model)を置くことで、この二つの専門領域・職域の融合を促すと言えるかもしれません。さらに、3つの異なるモデルを、共通の原理原則、フィロソフィーで繋いだ時に、その互換性が強まると我々FMSは考えたのです。

 

 そして、FMS開発当時、この2つの専門領域の間に存在したギャップの問題は、世界中の多くのフィットネス、リハビリテーション、競技スポーツ現場が今日も抱える問題と言っても過言ではありません。そして、FMSが世界各国の様々な医療現場やフィットネス、スポーツ現場で使用される所以はここにもあります。

 

*トレーニングモデルを表現するのに筆者が作成した造語

 

 

 

動作システムは、環境の中で知覚し、行動する。

(Movement systems perceive and behave in an environment.)

 

認知知覚は行動を駆り立てる。

(Perception drives behaviors.)

 

 

 

 これは運動制御モデルを表すのに、90年代からGrayがたびたび使っている言葉ですが、機能障害モデルや適応モデルのベース・礎、またはHubとも言える動作システムの健全性が不可欠であることを表現したものです。この視点をメディカルとフィットネス・パフォーマンスの両者が共通してもつことができれば、それぞれの職域の専門性が活かせ、成果より出すことができると考えたことが、FMSの開発へと繋がった考えの一つです。

 

 

 この問題意識の一部、パフォーマンス・フィットネス(適応モデル)と動作システムの健全性(運動制御モデル)の関係を表し、当時のそして今なお多くの現場で起こっている問題への認知と理解を高めるために考案したのが、パフォーマンスピラミッドでした。

 

 最初に書籍にこのパフォーマンスピラミッドのコンセプトが紹介されたのは、2001年に公刊されたBill Foran (ビル・フォラン(Bill Foran)の”High-performance sports conditioning”とされています。その後、このパフォーマンスピラミッドは正しく理解され賞賛されることも、そして、背景から切り離され誤って理解され批判されることもありながら、拡がってきました。

 

 FMSが学会やカンファレンスで公表されたのは96-97年ごろですが、公表直後に、米軍やNFLのアスレティックトレーナーやストレングスコーチが採用し、現場で大きな効果が得られたことから、口コミで世に広がり始め、2004年より定期的なセミナーをとして開催されるようになりました。

 

 2004年には、FMSに触発されたGregg Roseらの参画もありながら、FMSの医療モデルSFMAの開発が始まることになりました。